デラシン通信

大谷翔平の活躍を支えた「睡眠力」 ※週刊朝日  2021年12月3日号

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               大谷翔平の活躍を支えた「睡眠力」 
                 一般人が眠る最適時間は?
 
 投手と打者の二刀流を実践し、米メジャーリーグでベーブ・ルースと比較されるほどの活躍を見せたエンゼルス・大谷翔平(27)。その生活をひもとくと、「1日12時間寝る」「つねっても起きない」
など特異な「睡眠伝説」が浮かび上がってきた。超人的活躍を支える「寝る力」とは──?
今季は投手として9勝、打者として46本塁打と大暴れした大谷翔平。11月19日(日本時間)には、
日本人としてはイチローに次ぐ年間最優秀選手(MVP)に選ばれた。
日本帰国後の11月15日に開いた記者会見では、「落ち込むことも含めていい1年だったなと個人的には思っています」と、シーズンを振り返っていた大谷。ふだんの生活の中でひらめいたアイデアを試合で試すのが楽しみだったそうで、会見では次のように語った。
「寝ているときとか、『なんかいけそうだな』というのが出てきたりするのが一番、やっていて面白いなと。次の試合で試してみようとか、というのがやっていて一番面白い」
この発言にも表れているが、大谷はこれまでも事あるごとに睡眠の重要性を口にしてきた。
今年7月のアシックスジャパンによる動画インタビューでは、「小学生のころは毎日夜9時から朝7時まで寝ていた。昼寝もしますし、半日くらい寝ていたかもしれない」と証言。
子ども時代だけでなく、右肘手術明けの2019年の春季キャンプ時には1日に昼4時間、夜7時間の計11時間の睡眠をとっているとスポーツ紙に報じられ、今秋も雑誌のインタビューで「一番大事に考えているのは、寝ることです。もともとシーズン中はいっぱい寝るようにしてきましたけど、今年はとくにいっぱい寝るようにしていますね」(「Number」9月24日号)と話した。子ども時代も今も、1日10時間を超える時間を睡眠に費やしていることがわかる。  
これは何を意味するのか。“睡眠負債”の言葉を生み出したベストセラー『スタンフォード式 最高の睡眠』の著者で、米スタンフォード大学医学部精神科の西野精治教授はこう語る。
「1日の睡眠時間には個人差がありますが、平均は米国人で7.5時間、日本人で7時間ほど。
一方、割合は小さいですが日に3~4時間しか寝ない人や、10~12時間寝る人もいます。
4時間未満はショートスリーパー、10時間以上はロングスリーパーと呼ばれます」
この分類で考えると、大谷はロングスリーパーと言えそうだ。では、長く眠れば眠るほどスポーツの成績向上や健康につながるかというと、一般的にはそうは言えないという。
西野教授が続ける。
「統計的に見て、睡眠時間が平均に近いほど健康で、疾患リスクや死亡率が最も低い。
一方、睡眠時間が極端に短い人や長い人は、数年間の追跡調査の結果、様々な病気のリスクが高くなることがわかっています。
1日10時間以上寝る人の場合、昼間の眠気や目覚めの悪さ、体の不調などがあると、睡眠障害の過眠症と診断されることもあります。一方で例外もあって、睡眠時間が短くても長くても、いたって健康な人もいる。テレビなどで見る限り、大谷選手も疾患等の兆候は認められない。
健康なロングスリーパーという、珍しいケースかと思われます」

◆プロ野球選手は「時間差勤務」
ところで、睡眠という観点から見ると、プロ野球選手という職業は、実はかなり過酷だ。
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の徳山薫平教授は、大谷が16年に在籍していた日本ハムファイターズの全試合の試合時間データをもとにこう語る。
「週末のデーゲームと平日のナイトゲームでは、試合開始時間が5時間異なる。これは医療関係者や消防士、コンビニ店員など交代制勤務の職場と近い条件です。交代制勤務で睡眠時間が頻繁に変化すると、一般的にメタボリックシンドロームや高血圧、がんなど色々な病気の発症リスクを高める可能性がある。うつなど精神疾患のファクターにもなり、もちろん集中力にも悪影響が出ます」
シーズン中の野球選手は体を酷使しながらそんな生活を半年間続けるわけで、体や脳への負担は大きい。夏に成績が落ちる選手を夏バテや疲労だと解説することがあるが、交代制勤務の影響がボディーブローのように響いて体調を崩している可能性もある。
メジャーリーグは、日本よりさらに過酷だ。
「米国東海岸と西海岸の時差は約3時間。ロサンゼルスからニューヨーク側へ向かうと時間が3時間早まります。デーゲーム・ナイトゲームの違いを考慮すると、最大7~8時間勤務時間が変わります」(徳山教授)
これは朝出勤と夜出勤の違いに等しく、1日の生活リズムはますます不規則になる。
徳山教授はこう続ける。
「睡眠とは本来、時間だけではなく、規則正しく眠ることも大事。大谷選手の職場ではそれが非常にやりづらいです。時差ボケは1週間以上続くこともあり、野球選手は体が慣れる前にまたホームに戻ってきてしまう。半年にわたって毎週7~8時間も揺さぶられれば、体は絶対バテます。40年近く集計した米アメリカンフットボールの統計でも、東海岸のチームが、西海岸に来てナイトゲームをすると成績が悪いという数字が出ています」
不規則な生活リズムを強制されるメジャーの環境で、しかも、誰も経験したことのない「二刀流」でシーズンを戦い抜いた大谷。徳山教授は、「この悪条件で結果を出すのはすごい。まさにスーパーマン。テレビで見ているかぎり、メンタルも交代制勤務の影響は強く受けているようには見えません」と驚嘆する。
過酷な条件下で結果を出した原動力の一つは、やはり「寝る力」なのかもしれない。
前述の「Number」のインタビューで、大谷はこう証言している。
「ナイターデー(ナイトゲームの翌日がデーゲーム)なら6、7時間寝られればいいほうかなという感じですけど、ナイターナイターだったら、10時間から12時間くらいは寝ています」
睡眠導入剤などは使わず、「寝ていいと言われたら、いくらでも寝られます」というから筋金りだ。これだけ眠るのはかなり難しいことだと、前出の西野教授が語る。
「いくら寝てもいいという条件下でも、元来は自分が必要とする以上は眠れないもの。
 習慣的に1日10~12時間眠るのは難しいです。一部論文のデータでは、日本人で10時間以上寝ている人は4.3%とあります。12時間以上になるとさらに少なくなり、1%程度ではないかと考えられます。
それらの人がすべて、健康かどうかわからないので、健康なロングスリーパーはそれより少ないことになります」
大谷の睡眠の特徴の一つが、「つねっても叩いても起きない」という熟睡ぶりだ。大谷を追いかけたノンフィクション『道ひらく、海わたる~大谷翔平の素顔~』(佐々木亨著・扶桑社文庫)の中で、母の加代子さんはこう語っている。
「幼稚園や小学校の低学年ぐらいまでだったと思いますけど、学校から帰ってお友達と外に遊びに行く翔平は、夕方に家に帰ってくると体力を全部使い果たしている感じで、ソファで寝てしまうことがよくありました。私が夕飯の支度をしていても、まったく起きない。寝始めると本当に起きなくて。
結局、お父さんに寝室まで運んでもらって、そのまま朝まで寝てしまうことが週に何回もあった時期がありました」
◆さんまは超短眠 遺伝要素が強い
こうした逸話について、西野教授はこう分析する。
「ダラダラと長くではなく、質の高い深い睡眠ができているのは間違いないでしょう。長く質の良い睡眠がとれている可能性があります」
さて、ここまで話を聞くと気になってくるのが、自分自身の睡眠時間だ。大谷のようなロングスリーパーになれば、仕事などでパフォーマンスを向上させることができるのだろうか。
一方で、ロングスリーパーとは逆に、かつて「1日3時間しか寝ない」と言われたお笑いタレント・明石家さんまのように、ショートスリーパーとして知られる人物も少なくない。ビジネスの世界では短眠が有利だとする風潮もある。だが、現実にはロングスリーパーもショートスリーパーも、「なろう」と思ってなれるものではないようだ。前出の西野教授が語る。
「4時間未満の睡眠でも健康を維持するショートスリーパーは、ロングスリーパーと同じく、1%未満の少数と考えられています。いずれも遺伝的な素因を有する方々です。ほとんどの人はそうした遺伝子を有しませんので、睡眠時間を無理やり短くしたり長くしたりすれば体を壊します。くれぐれも、大谷選手のマネをしないようご注意を。重要なのは、身体が必要とする睡眠時間に比べて、どれだけ寝ているか。適正な睡眠時間を確保し、かつ深い睡眠がとれれば、身体のメンテナンスに有利に働く可能性があります」
自身に最適な睡眠時間を測るには、次のような方法があるという。
「まず好きなだけ寝る生活を続けてみること。一般的には最初は13時間ほど寝られますが、だんだん短くなって収束します。3週間経って増えも減りもしなければ、その時間が、身体が必要とする睡眠量と考えられます。もう一つの目安は、休日と平日でどれだけ睡眠時間が変わるか。平日7時間寝る人が休日90~120分以上長く寝るなら、普段の睡眠が足りないことになる。それで自分に必要な睡眠時間が測れます」(西野教授)
大谷の「睡眠力」はまだまだ神秘のベールに包まれているが、睡眠とうまく付き合う生き方は、ぜひ見習いたいものだ。(桜井恒二)

※週刊朝日  2021年12月3日号

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